★だい19わ:ふぇありぃとらんぷのかこ〜ふたつのせんそう〜★


大「ほいすと達が出立してからかれこれ1ヶ月・・・いくら何でも誰からも報告が全く来ないとは・・・! 一体アイツらは何をしてると言うのだ!」
王「うむ・・・」
大「王さまはずいぶん冷静ですな・・・何か今後の策でもあるんですかな?」
*「た、たいへんです、王様!!」
大「夜中と言うのに騒々しいぞ、どうしたというのだ!」
*「と・・・とらんぷたうんが爆撃されてしまいました・・・!」
大「は・・・? 爆撃? いったいどういうことだ!?」
*「は――、どうやら、アレが投下されたのではないかと思われます」
大「で、そのとらんぷたうんは!?」
*「・・・壊滅・・・とのことです」
大「そんな・・・! では、ほいすと達は・・・!?」
*「・・・・・・」
大「通信網は!? 通信網は開いているのか!?」
*「妖精たちは誰ひとりとして居ません・・・周囲の村々にも甚大な被害が出てしまい、ライフラインは完全に断たれてしまいました・・・!」
大「そ、そんな・・・魔法でもそこまでの破壊力を持った妖精など・・・」
王「・・・・・・大臣よ・・・」
大「は、はい」
王「済まなかったな・・・・・・」
大「え?」
王「・・・どうやら、我々は最悪の結末を迎えてしまうことになるかも知れん・・・!」
大「ど、どう言うことですか!?」
王「我々妖精たちの歴史が・・・終わるのだ」
大「な、何を変なことを仰いますか!? 我が軍の実力をお忘れですか? 魔法力はもちろん、知力も武力も――」
王「そんなレベルではないのだ」
大「・・・・・・?」
王「蒼き星との架け橋を立てるタイミングを誤ってしまったか、それとも架け橋自体を立ててしまったのが間違いなのか・・・」
大「王様・・・?」
王「おぬしには感じぬか? 波動の力が徐々に近づいているのを・・・そして確実に大きくなっているのを・・・」
大「―――ハッ!? ホ、ホントだ・・・ピリピリしていたせいか、気を欠いていたのだろうか・・・?」
王「ここはもちろん、星全体がゴーストタウンになってしまうのも時間の問題かもな・・・」
大「ま・・・また悪いご冗談を・・・!」
王「・・・・・・済まなかった・・・!」
大「・・・・・・」



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みなさん、ごきげんいかがでしょうか? 星際機関初等部の校長です。

これから私がお話しすることは、昨日先生方とまったく同じようにしてきたことです。
ひとつは、戦争のこと。
もうひとつは、ある妖精のお話です。
これをご覧のみなさんの大半は蒼き星の住人と聞いてますが、しばらくの間お付き合い頂きたく思います。
我々妖精族はもちろん、蒼き星のみなさんにとっても少しは関係することと思います。
あ、どうぞ飲食はお構いなく。召し上がりながらで結構ですよ。


それでは、始めます―――


核を使った爆弾の力ほど恐ろしいものはありません。
では初めに――魔法遣いである我々妖精族が、はじめて無力に曝された出来事をお話ししましょう、おそらく蒼き清浄の星でもイヤになってしまう位に聞かされ続けた出来事だと思っています。
前置き序でに言うと、半世紀以上前の私たちの星と蒼き星は時同じくしてそれぞれ戦場の最中だったことをまずご理解下さい。
詳しい話はまた改めてと言うことで。

昨日私が教師のみなさんに見せた映像は、何十年も前に蒼き星に行き、帰ってきた妖精が実際に現地で収めたもの。
ちなみに映像と言うのは、これも魔法によって収める手段ですが観察眼の鋭さが問われる非常にシビアな術です。
目で見た景色やそこに居た生き物や道具・天気などを頭に描き、それを魔法の光で映像として再現するというもの。魔法そのものは大変難しく、観察眼が未熟だと子供の描いた絵のような映像になったりなど、物の判別が付きにくい結果に終わってしまいます。今の妖精族で使えるレベルのはほとんど居ないでしょう。私も収めた映像の再生は出来ますが、実際に収めることは出来ません。

話が逸れてしまいました、戻しましょう。
現地に赴いた妖精たちは運悪く戦火の地に着いてしまったらしく、目的を果たすには難航を極めたのだそう。
ある日、現地の朝方に出発した妖精たちは、只ならぬ空気感を察知しました。以下は、映像から流れた声です。

 「何だ・・・この妙な胸騒ぎは・・・?」
 「どうされました?」
 「分からない・・・分からないが・・・何となくいつもと様子が違う・・・」
 「そうですかね? 私にはいつもの泥臭さしか感じませんが・・・」

ブン―――・・・
 「バ、バリアなんか張って一体どうされたんです!?」
 「上を見ろ、何か来る!! お前たちも手伝え!!」
 「は、はい!!」


その直後、地上は一瞬にして変わった――――・・・


爆撃からは自分の身を護るための(少なくてもニンゲンの目には見えないとされる)幕・・・つまり、バリアを張ることで私たちが見た映像は辛うじてそのままの状態で映っていました。彼らが遺した功績と言ってもいいでしょう。
しかしあまりにも強大な爆発は、みんなの力をもってしても、身を守ることまでは出来なかった。と言う一説がありますが、実際のところは未だに明らかにされていません。
この映像は、どうやったのかは分かりませんが現地に赴いたとされる妖精が大怪我の状態で国に戻り、死守したもの。
しかし、国へ状況報告をする前に力尽きてしまい、残された映像のみがすべてを物語るしかなかったのです。

そして爆撃をまともなバリアもなしに受けた地上はと言うと―――・・・・・・

どう表現すべきか説明出来ないくらいの地獄絵図でした。
何万ものニンゲンの命を一瞬にして奪い、景色の面影さえも焦土と化した・・・そう、別世界に飛ばされたような感覚に陥らせる破壊兵器。
そしてニンゲンはおそらく知られざる事実であろう、異星の、それも架空の存在と言う認識でしかなかろう妖精の命をも巻き込んでしまったことを――。

あの強力なバリアさえも通用しなかったと鑑みれば、
如何にその爆弾の威力たるや、ぼんやりでも想像は付くことでしょう。
銃弾や手製の爆弾程度ならきっと簡単に跳ね返せたであろう、彼らの魔力を超えた兵力の前では、妖精の力は無力であることも証明させられたに違いありません。


・・・若い頃の私は正直、こんなトラウマになってしまいそうなの見るんじゃなかったと思いました。
ですが、ものを教える立場である以上、「我々がこの事実を伝えねばならない」と鼓舞し、後々出世するに当たり、魔法にとても詳しい先輩方の好意により、映像をコピーするという高度魔法を唱えていただくことで快く分けて下さいました。


さて、蒼き星で殉職した妖精の中には、私たち星際期間が今持っている魔法レベルとはまるで比べ物にならない実力の持ち主で、
あらゆる種類の魔法を使いこなす、国にとって無くてはならない逸材が含まれていました。

その妖精の名前は「なぽれ」。

妖精たちの歴史に名を残した、“四葉クラブ ”を司る英雄です。
他にも英雄は“ハート”・“スペード”・“菱形ダイヤ”と3つの称号が刻まれていて、別名“四大妖精ふぇありぃとらんぷ”とも言われます。なぽれはふぇありぃとらんぷの中でもダントツのトップに君臨する存在でした。

彼は四大妖精になる前から既に、王に並ぶ国の象徴ともとれる存在で、当時の住民らからも英雄として大変慕われました。
蒼き星に行ける力を持つただひとりの存在。

一部では「英雄は今でも生きている」と唱える妖精も少数ながらなお存在します。
ですがもう半世紀以上前の話であり、当時の状況やなぽれたちの年齢を考えると(失礼な話、当時のなぽれさんは初老齢とのこと)、今でも生きているとは思えません―――。
かといってこの星に戻ったでもなく、恐らくは残された側近たちも既にみんな蒼き星のどこかで亡くなられたのだと思います。


また、なぽれには若い妻がいました。
同じふぇありぃとらんぷのはーつと言う妖精です。
彼女は、ふぇありぃとらんぷの中では一番の遅咲きで、幼少の頃は不遇と挫折の連続を余儀なくされ、歴史に名を残すのに一番苦労を強いられた妖精と言われています。

では、彼女の身の廻りに起きた出来事とは―――?


彼女の育った村は大変貧しく、そして村を統括するべき妖精たちの牽引力の乏しさもあってか、村としての機能はもちろん、治安も非常に悪いとされていました。
その代わり、はーつの家族はとても穏やかで優しく、貧しい村にしては比較的裕福な暮らしで、彼女にとって唯一の理解できる存在であり、心の拠り所でもありました。
しかし一寸先は闇。はーつの通う学校は、悪童と悪童たちに翻弄された立場無き教師たちの集まる場所でした。
はーつ一家の経済力ならば、移住・転校することも十分に可能だったのでしょうが、なぜか住処はそのままでした。
なぜかは私も残念ながら分かりません。
恐らくは、疲弊した村の対応が温かったのか、それか周囲と何らかのトラブルを抱え、その圧力が一家を縛っていたか、もしくは他の村や町が戦場か何かでで移り住むには危険を伴う為ではなかったかと思います。
当然そんなギスギスした環境の中でははーつの成績など芳しくはなく、また友達も一切居なかったそうです。

また、クラスメイトから卑劣ないじめにも遭っていたそうです。それは、思春期を迎えたはーつの心を更に閉ざしてしまう原因になっていました。
言葉の暴力に始まり、殴るけるの暴力、果ては魔法で攻撃するという武力をもって―――・・・
いじめは日に日にエスカレートするばかり。
両親にも相談はしたものの、期待できる対応力など学校や村には当然ありませんでした―――

「我々の学校に限ってそんなことが起こるわけがない」
「仮にいじめを受けているとしたら、受ける原因を持っているあなたに非があるんでしょう?」

話すら取り合って貰えない、四面楚歌の状態。
それがはーつにとって当たり前の日々でした。

・・・学校なんて所詮、教科書をめくって黒板に何か書くだけのルーチンワークなんだ。

それでも休むことなく学校に通い続けたはーつは、偉いと言うべきでしょうか。それとも、愚かなのでしょうか?
休もうと思えば、逃げようと思えば、不登校と言う選択肢もあったはず。
でも彼女はその選択肢に触れることは決してなかった。

偉いと言うべきでしょうか。
愚かなのでしょうか?


そして、ついに事件は起きてしまいました。


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